それもまた以心伝心?
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。

  


ピカピカに磨かれたステンレスの作業台は
それは清潔そうで、並べられたボウルや何やの影が映ってて綺麗。

ごとんごん、ごぉぉぉおん

 「あ、びっくりしましたか。
  大きいボウルですから銅鑼みたいによく響くんですよね。
  両手で押さえこまなくともいいですよ。」

皆 慣れていますし、ナイショにしたいことでもないでしょう?

………。(頷、頷)

「では、まずは玉子をボウルへ割り入れます。
 あ、一個ずつ小鉢へ割って確かめてくださいね?」

こんこん、かしょ・しゃぽん。

「菜箸で溶きます。
 泡だて器でかかると繊維を潰しすぎるので、…そうそうそんな感じです。」

かしょかしょ かしょかしょ、ちゃっちゃっちゃっ。

「出汁と砂糖を加えて軽く混ぜてから、
 薄口しょうゆを分量、そうそう。くるんと広げる程度に。」

さぱ、とろとろ、かしょかしょ。

「では、焼いてみましょうね。
 玉子焼き用の焼き器を火に掛けます。」

かたん・ごとり、ぼんっ。

「温まってきたら油を引いて、
 菜箸の先をチョンとつけてみてください。
 いい具合ですね、
 では溶き卵をお玉に半分ほど取って流し入れてください。」

ちゅん、じゅわんじゅんじゅん、じゅじゅー。

「透明だったのが焼けてゆきますね。
 泡が膨らんでるところは手早くつついて潰します。
 それから、端の方を摘まんで、そうそう…。」

ちりりじゅじゅう、じゅんじゃっじゃっ、
じゅわんじゅじゅう、かたんこと、じゅわんじゅうん。
かちり、じゅじゅん、ぼさばさ、ほわぁん……。

端から巻いては次の卵を注ぎ込み、
くるりと巻いてはまた次と。
やや覚束ないながら、それでも丁寧に焼かれてゆくのは出汁巻き玉子。
焼き器の上で育ってゆくのを くるんと返すたび、
ついのこととてチョンと自身が飛び跳ねるのが何とも微笑ましいことよと、
指導しているシェフ殿はほこほこ微笑っておいでだが、

 「……。」

何しろ手掛けるお人が極端に寡黙なものだから、
指導する側も途中から ついつい声が出なくなったらしくて。
これでいいの?と目顔で問われては、
よろしいですよと目配せや頷きで返すという、
無言のままでのやり取りを交わす二人となってしまったものだから。
それは静かな分、微妙に周囲へ要らぬ緊張を押し付けていたような雰囲気まで生じ、
いやにしんとした作業を皆さんにまで強いてしまった昼下がりだったりし。
日頃からもそれほど騒がしい場所ではないけれど、
こうまで手に汗握ってしまうよな緊迫感に包まれるような場所でもない。
というのも、

 「お。ここに居たか。」

観音開きの大きな扉を押し開けて、
ひょいとお顔を出したのは、当家の主治医の榊せんせえで。

 「こらこら、西丸さんのお邪魔をしてどうするか。」

出入り口の手洗い場に置かれてあったアルコール消毒の薬液、
手慣れた動作で両手へプッシュしてから、
中へと入って来るところはさすが衛生管理にも心得のあるお人だが、
そんな彼の言いようへは、

 「いえ、構わないんですよ、榊先生。」

この厨房を預かるお人なのだろう、
寡黙なお嬢様に何やら指南をしていた白衣姿のおじさまが、
ふふと柔らかく笑って宥めるような言いようをなさる。
そう、こちらは 紅ばら様こと久蔵さんのご実家の奥向き、
それは広くて本格的な仕様のキッチンの中であり。
三木家の厨房ともなれば、
ホテルJのご贔屓筋や、
三木コンツェルンとの親しいお付き合いがある客人をもてなすような
それは素晴らしい晩餐を手掛けもする。
なので、
他所のホテルからも引く手数多だろう、
名のあるシェフ殿が料理長という責務を負うてはおられるが。
そんなお人に、普段の食事まで作らせるのは ちょっと役不足かもしれぬこと。
大きな宴の時だけ出て来てくださってもと
一応は自由な運営を任されておいででもある身のお人でもあるのだが。
だというに、
名声よりもこちらのご一家のお役に立てることこそ僥倖と、
それは素晴らしい手腕と 丁寧で心のこもった手際とを、
惜しみなく供してくださっており。
そんな名シェフの手になるご馳走を食べて
ここまで立派に育った跡取りのご令嬢、
まな板に移された まだ湯気の立っている出汁巻き卵を
熱い熱いと大慌てしつつも端の方を少しだけ切り分けると、

 「……。」

ほれと、菜箸に刺して主治医様の顔の真ん前へ差し出すものだから。

 「こういう時は小皿に移して、
  箸か黒文字の楊枝を添えて“どうぞ”と言葉を添えるもんだぞ。」

というか、出来れば冷ました方が
切るのも食すにも最適だったろうにと、
西丸シェフがやんわり苦笑をしている前で。
そんな目上の方への目礼を寄越してから、
綺麗な指先でチョイと玉子の切り身を摘まみ、
パクリとご相伴にあずかった兵庫さん。

 「…お。」

食感と風味をようよう探ったその上で、
まずは…作った本人らしいお嬢様の頭越し、
こいつが全部手がけましたか?と目顔でシェフ殿へ問いかけ。
はいという頷きを確認してから、

 「…うん。巻きが緩いところもあるが、食感はつるんとしていて上出来だ。
  味付けは もちょっと冷まさにゃ判らんのだろうが、
  出汁の風味を邪魔してない微妙さはいいと思う。」

 「…vv」

ただただ“美味しい”とか“上手に出来たねぇvv”と褒めちぎるでなし、
そうかといって、越えた舌には物足らぬと一刀両断するでなし。
率直に評価をしたうえで、初心者への意欲を潰さない方向へ上手にいなす物言いが、

 “おさすがですねぇ。”

こちらのお嬢様の寡黙さに、ご両親と同じほどついてけるシェフ殿が、
ぱあっと表情を輝かせた久蔵さんなのを読み取って、
なんてまあ微笑ましいと、若いお二人のやり取りを見守っておれば、

 「とはいえ、皆さんのお邪魔はよくないぞ。
  気まぐれじゃあない?
  菓子以外に作ってみたいものがあってのことだ?
  …恵方巻なら カンピョウと干しシイタケの煮つけもいるぞ?」

 「…っ!」

不意をつかれてか、びくぅっと細い肩を跳ね上げた、
一丁前にここの皆様とお揃いのシェフ用白衣を着ていた金髪のお嬢様。
そのまま自分のお口をパパっと、両手で素早く塞いだものだから、

 “いやいや、何も仰ってませんて お嬢様。”

語るに落ちたってやつ? まんまとこぼれちゃってた?
そういう立場になった人の慌てふためく所作なのへ、
居合わせた若手から中堅から、西丸さんまでもが
同じ文言をついつい胸中にてツッコんでしまったほどだったけれど。

 「なに、顔に書いてあったのでな。」

もうじき節分だからな、そのくらい推理できるとは言わず、
ここは茶目っ気を出してそんなお言いようをした榊せんせえだったのへ、
おお、美味いことをお言いになると、ほっこり皆さんが和んだのも束の間、

 「……っ☆」

口を塞いでいた両の手で、今度は頬やら鼻の頭やら、
ぐしぐしごしごし擦り始めたお嬢様だったのへ、

 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ。」×@

厨房中の人々がその場へ屈みこみ
何とか吹き出すのをこらえたのは ここだけのお話でございます。





   〜Fine〜  16.02.10


 *愛妻の日を逃し、
  せめて節分に間に合えば…と
  空しい願いを抱きつつ練ってたネタでした。
  相変わらずの相性なお二人です。
  判る人が限られそうですが、
  最近気に入りの『野崎くん』の堀ちゃん先輩と
  ウチの兵庫さんがダブってしょうがないです。(おいおい)

  ちなみに、白百合さんは
  豪雪の続いた日々
  勘兵衛様から電話をやたら掛けてもらえて
  嬉しがってたりしたら判りやすいです。

  「??」
  「いえね、一斉捜査にって埼玉まで遠出した帰りに
   国道の立ち往生に引っ掛かったしたらしくて。」
  
  そんな裏話を、
  久蔵さんは良親さんから ヘイさんは征樹さんから
  こっそり聞いてると笑えますが。(こらこら)

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